プロセスシステム工学の研究動向

国内外の動き

プロセスシステム工学(Process Systems Engineering; PSE)は,分野横断型の基幹科学であり,その性格上,さまざまな学協会などにまたがった活動を展開している.日本国内におけるプロセスシステム工学関連の研究開発活動において中心的な役割を果たしているのは,化学工学会システム・情報・シミュレーション部会(SIS部会)および日本学術振興会プロセスシステム工学第143委員会である.1976年に発足したプロセスシステム工学第143委員会は2016年6月より第9期となり,新体制の下で活動を開始した.

2016年は,この分野に特に関連の深い国際会議として 7th International Symposium on Design, Operation and Control of Chemical Processes (PSE Asia2016)が,7月24日〜27日に東京大学伊藤国際学術研究センターで開催された.PSE Aisa は,アジア地域におけるPSE研究者が一堂に会する場として, 2000年に京都で第1回を開催して以来2〜3年毎に開催されてきており,2016年は16年ぶりに日本での開催となった.今回の会議には,総計258名(国内80名、国外178名)の参加者があり、韓国、台湾、中国、タイ、マレーシアからは二けたの参加者があった.ここでは,プロセスシステム工学に関する127件の口頭発表、36件のポスター発表と10件のキーノート発表があり,毎日熱心な討論が行われた.なお,この会議で発表された研究から選抜されたpaperのextended paper が,2017年6月号のJournal of Chemical Engineering of Japan に特集号として出版される予定である.また,次回のPSE Asiaは,2019年1月にタイのバンコクにて開催することとなった.

その他の関連する国際会議も数多く開催されている.2016年6月6〜8日には,白夜のノルウェイ・トロンハイムにて,IFAC Symposium on Dynamics and Control of Process Systems, including Biosystems (DYCOPS-CAB 2016)が開催された.理論から産業応用まで計200件を超える研究発表があり,うち1件は日本からのキーノート講演で,新たなベンチマーク問題として酢酸ビニルモノマー製造プラントモデルを開発したという内容であった.6月12〜15日には,26th European Symposium on Computer-Aided Process Engineering (ESCAPE) が SloveniaのPortoro?で開催された.この会議には,47か国から計406件の発表があった(176件の口頭発表,7件のプレナリー,18件のキーノートと,230件のポスター).11月13〜18日には,米国化学工学会の 2016 AIChE Annual Meeting が San Francisco (USA) にて開催された。SIS 部会と関係が強い Computing Systems and Technology Division のセッションでは、若手研究者や学生の発表が目立った。会期中には SCEJ によるレセプションが開催され、各国からの研究者や現地日本法人の研究者間の交流が活発に行われた。2017年は、10月29日〜11月3日に Minneapolis (USA)で開催される予定である。

国内では,本学第81回年会(3月13日〜15日,関西大学)にて,システム・情報・シミュレーション部会の一般セッションやポスター発表を開催し16件の口頭発表と8件のポスター発表があった.また,本学会第48回秋季大会(9月6日〜8日, 徳島大学)にて,「プロセスシステム工学の最近の進歩」や「ダイナミックな反応・移動現象の解析とプロセス強化への応用」,「統合化工学の新展開」などのシンポジウムが開催され,多くの研究発表があった.同大会では,第15回プロセスデザイン学生コンテスト3)も16社の協賛の下で開催され,9チームの参加があり東京工業大学チーム(小林 昴仁氏)に最優秀賞が贈られた.2016年のSIS部会賞としては,研究奨励賞が金尚弘氏(京都大学)に贈られた.また技術賞は,「製造設備スケールアップ時のベイズ的操業条件最適化」に対して,吉崎亨氏,加納学氏(京都大学)に,「適応型ソフトセンサーおよび推定値の平滑化を実現するソフトセンサーツールの開発」に対して金子弘昌氏(東京大学),大寶茂樹氏,松本卓也氏(三井化学),船津公人氏(東京大学)にそれぞれ贈られた.

プロセスシステム工学分野の活動は化学工学会や143委員会にとどまらず,計測自動制御学会やシステム制御情報学会など他学会においても,SIS部会のメンバーを中心としたオーガナイズドセッションなどが積極的に企画されている.化学工学会も主催団体の一つとして参画している第59回自動制御連合講演会(11月10日〜12日,北九州国際会議場)が開催され,プロセス制御・運転に関するオーガナイズドセッションなどが企画された.

研究・技術動向

PSE Asia 2016のAbstract Book 中の単語の出現頻度解析の結果を見ると,従来からの伝統的な分類にみられる技術として,「Control」や「Design」「Model」のようなプロセスシステム工学の根幹をなすものが高頻度で出現しており,まだまだ残された課題が多く様々な取り組みが行われていることがわかる.また,一方では,「Data」「Drug」「Health」のような新しいテーマも高頻度で出現しており,これらの領域への関心も高まっていることが見て取れる.

IoT (Internet of Things) やビッグデータ解析に関する研究や産業応用は,この数年で急速に関心を集めており,製造業においても,IIoT(Industrial Internet of Things), Industrie 4.0, スマート工場など,さまざまな呼び方で高い関心を持って取り組まれている.化学産業においても、スマート化は熱心に取り組まれており,モバイル機器の活用やプロセス時系列データを用いたモニタリングや保全、状態推定、将来予測をはじめとして,さまざまな研究や応用が報告されている。経済産業省でも,2016年度に,IoT・ビッグデータ・AIの活用による安全性と収益性の両立に向けて,「産業保安のスマート化に先行的な25社の取組」をまとめている4).SIS部会やプロセスシステム工学第143委員会でも,スマート化関連の最新技術や話題を継続的に取り上げている.

今後の展望

化学プラントでは、さまざまな運転データ等が比較的容易に得られるようになったばかりではなく、その蓄積や高度な処理を経て、双方向のネットワークを通じてのリアルタイムでの制御も行われている。これは CPS (Cyber Physical System) そのものであり、今後、大きな発展が期待されている。今後、モデリングとデータ解析の両者を積極的に活用していくことによって、これまで以上に高効率・高安定な運転・制御の実現や、これまで不可能だった予測や診断も可能となり、プラントをはじめとする化学関連産業のスマート化がますます発展していくことが期待される。

(東京農工大学 山下,福岡大学 野田,2017年)


 
   
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